ついに日本政府がやってくれました.鳩山さんはとうとう自爆スイッチに指をかけてしまったようです.CO2の25%削減目標は「中国やアメリカなどの主要排出国が枠組みに参加すること」が条件のようですが,それは即ち,「他の国が5%削減で合意すれば日本だけが25%削減」なんてこともあり得るわけですね.(笑

この鳩山イニシアティブには世界各国は諸手を挙げて日本の自爆に拍手喝采でしょうが,こんな無理難題を掲げて民主党政権はほんとにどうするつもりなんでしょうか? 本気で日本を海(不況)に沈めるつもりなのでしょうか?

JAPANデビュー問題で絶賛炎上中のNHKで,環境のためにリサイクルを実施しようという趣旨の教育番組を放送していたのですが,その内容にいくつか疑問点があったので紹介します.

1)ドイツでは日本よりリサイクルが進んでいるという旨の紹介で,自動車の解体とリサイクルの映像

2)バングラデシュでの船舶解体業者の現状と,それをあたかも先進国が押し付けているような表現

1)がおかしいと感じるのは私だけでは無いはずです.元々自動車の解体とリサイクルはどの国でもやってますよね.それにドイツが特別進んでいる訳ではありません.むしろ,これらの自動車解体業者は人件費の安い発展途上国に多いものです.ドイツで盛んに自動車のリサイクルが行われているというのは,ベルリンの壁崩壊後の東西ドイツ統一後,旧共産圏の低所得地域で盛んに自動車解体業が行われているということではないでしょうか?自動車のリサイクルってのどの国でも当たり前に行われいることなので進んだリサイクルの取り組みとして取り上げる程のことなのでしょうか?

2)はグローバル経済の中で,資本主義経済が選択するのはコストの安さです.世界中の廃船が人件費の安いバングラデシュに集まるのは当然の結果でしょう.バングラデシュ国内で使用される鋼鉄材や銅材の多くがこの廃船解体で得られたものであり,これがバングラデシュの経済を支えているといっても過言ではありません.これは先進国と発展途上国の双方にメリットのある話だと私は思います.一方は「安さ」,もう一方は「お金」と「資源」を得られる訳ですから.もちろん廃船の解体で環境汚染が起きていることは間違いないでしょう.でもそんなことを日本人が言えるのでしょうか?環境問題なんてものはお金に余裕があるから言える話です.その日暮らすのもやっとという人たちに,やれ汚染物質がどうなど言っても聞く耳は持ってもらえないでしょう.

さてさて,ここでNHKの番組は終わってしまったのですが,どうしても気になるのはPETボトルのことです.全くといってもいいほど触れられませんでした(笑

PETボトルのリサイクルは意味がないという武田邦彦さんの広報活動が功をそうしたのでしょうかね(笑

武田さんの主張にはいくつか眉唾な面もありますが,科学としての環境学に工学的な視点を取り入れて考察を試みたことは評価すべき点だと思います.なぜ工学的な視点が必要かというと,工学というのは化学,機械,電気電子,情報通信,交通,経済といった諸学問をトータルに検討するものであり,また工学は科学と現実社会を直接結びつける学問だからです.特に工学の中でもリサイクルに関係深いのは熱力学という分野でしょうか.その熱力学のベースとなる法則の1つが熱力学第二法則なのですが,これがリサイクルの難しさを表している非常に面白い法則なのです.この熱力学第二法則はエントロピー増大則という名前でも知られています.詳しい方はご存知かと思いますが,このエントロピー増大則が「永久機関」の実現を阻んでいるというのは有名な話でしょう(ここではそれには触れませんが).エントロピーが何なのか分からない方もいると思いますので少しだけエントロピーの話をしましょう.エントロピーというのはとんでもなく難しいというものではなく「乱雑さ」や「混ざり具合」を表す指標のことです.エントロピーが小さい場合には,「規則正しい」状態であり,エントロピーが大きい場合は「不規則な」状態であることを表しています.具体的な例でいうと,インスタントコーヒーを考えるといいかもしれません.最初の状態(エントロピーが小さい場合)ではお湯とインスタントコーヒーの粉末はそれぞれポットと容器に分けられた状態になっていますが,飲む状態(エントロピーが大きい場合)にはお湯とコーヒーは完全に混ざり合っている状態になります.ここで注目してもらいたいのは混ざり合ったコーヒーの粒子とお湯を再び分割することが容易ではないことです.このように,エントロピーが小さい状態から大きな状態へと変化が起きてもその逆は起きにくいという現象をエントロピー増大則と呼んでいるわけです.さてここまでの話で,エントロピーとPETボトルのリサイクルがどのように関係してくるのか勘のいい人は気付いているでしょう.すなわち,石油という原料はエントロピーが非常に小さい状態(実際には石油は様々な化合物の混合物なのでエントロピーは大きい状態だが蒸留処理によって単体として出荷されるので)であるとすると,そこから生成されるPET材は化学変化や重合などの過程を経ることでエントロピーが大きな状態へと変わります.そして,PETボトルに加工された場合,飲み口・キャップなどにPET材以外の物質が加えられ,さらにエントロピーが大きくなります.こうしてPETボトルは最初の石油の状態からエントロピーが大きくなってしまっていますので,これをエントロピー増大則に逆らってリサイクルすることが如何に難しいか容易に想像できると思います.ここまでは物質的なエントロピーの増大を考えてきましたが,このエントロピーの考え方は空間的な移動(輸送や交通)にも適応できます.つまり,工場から出荷される状態のPETボトルはエントロピーが小さく,私たちの手元に来た段階でPETボトルのエントロピーは最大になっているわけです.エントロピーの増大則に従えば,エントロピーは大きな方から小さな方への移動は最初の変化よりも,より多くのエネルギーを必要とします.よってPETボトルのリサイクルはPETボトルの生産ほどエネルギー効率の良いものでは無いという結論が得られます.そんなこんなでエネルギー効率の悪化は即ちCO2排出につながるので,さっさとやめた方がいいということになるわけですね.

要約するとこんな感じ

A)石油からPET原料,PET原料からPETボトルへとエントロピーが増大,エントロピーを小さくするためには大きなエネルギーが必要.

B)生産工場から消費者,消費者からリサイクル工場,前者によってエントロピーが増大,後者を実現するにはより大きなエネルギーが必要.

C)エントロピーでみるとPETボトルのリサイクルは愚の骨頂.

ここまでエントロピーを用いてPETボトルのリサイクルがよくないと言う話をしてきましたが,誤解されても困るので追記しておきます.リサイクルが難しいというのはあくまでPETボトルなどの高分子材料を用いた容器包装や鉄筋入りのコンクリートなど,エントロピーが比較的大きくなりやすいものについてです.実は自動車や船舶などの金属を主体とした機械製品はエントロピーが低いためリサイクルが容易なものに含まれますし.ガラス製品なども,自動車の窓ガラスなど特殊なフィルムによってエントロピーが高くなりがちなものを除けは低エネルギーでリサイクル可能です.

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